(出典:国史絵画)
みなさんこんにちは、中今〇ノ丞です。
神武天皇が故郷の日向を出発して、近畿地方の大和にて最初の天皇
として即位するまでの物語の4回目です。
<前回の続きから>
さあ、いよいよ船出のときです。風もなぎ、朝霧もはれあがった海のむこう
から、まん丸いお日様がかおをのぞかせ、静かに上がってきます。
伊波礼比古命(神武天皇)と五瀬命(兄)をのせた船を先頭にして、朝日の
きらめく波間を七つばえ島と一つ神島のあいだを通って、次々、船は港を
出ていきました。
遠見の、ふくとが浦のところでは、ふぐの大群がおしよせて船がとおれなく
なりました。
伊波礼比古命が
「ふぐたちよ、どうか道をあけておくれ」
と呼びかけ祈られますと、ふぐたちはサーっと両側に別れて船の道をつくり
ました。
浜辺には、筑紫の人々が総出したかと思われるほど、大勢がお別れをおしみ
ました。
手に持った布をちぎれるほど振って別れをいう人、両手をあわせ泣きながら
無事を祈る人々であふれました。
伊波礼比古命は、その人々に手を振ってこたえました。
またしだいに遠ざかっていく筑紫のあちこちの小高い丘に鎮まります父、
葺草葺不合命(がやふきあえずのみこと)や母、玉依比売(たまよりひめ)
をはじめ邇邇芸命いらいの多くの神々に、一行の門出をお守りくださるよう
祈られるのでした。
今もこの美々津港から漁に出る人々は、灯台のある七つばえ島と一つ神島
のあいだの<御船出の瀬戸>は決して通らないのです。
ご東行の神武天皇の船がここを通って出られて、二度と帰られることが
なかった、この地方にとっては悲しい歴史を忘れていないからなのです。
(出典:「歴史人」より」